2024/03/28 12:00

■深い夜の孤独


昨夜、冷たい風に当たりながら泣きはらした恵瑠。

夫は、そんな彼女の疲れた顔を見て
「今朝は、もう少しゆっくりしたらどうかな?」と声をかけた。

恵瑠は、どんな気持ちで向き合ったらよいのかわからず、布団にもぐりこむとそのまま寝てしまった。

ハッと目を覚まし見た時計は10:00近く。
しかも誰かが家に来たようだった。
慌てて部屋を出ると、そこには両親が来ていた。

「恵瑠、田舎の従妹からおいしいオレンジが届いたのよ。持ってきたから食べてね」

そして「今日は、じぃじ、ばぁばとお出かけね」と孫たちを連れ出かけて行った。


「どうしたの?急に」と夫に聞くと
「休日だからさ、2人でゆっくりしようよ‥? 一人がいい?(笑)」

「うん、どうせなら一人がいいかな」

日々積もってきた、イライラや疲れから、素直になれない自分が意地悪な言葉を吐いた。
優しい彼に申し訳ない気持ちもあったが、後に引けない。

「じゃぁさ、ボクも出かけるね。子たちのお迎えを2人で行こう! 夕方に”チャンドラ・カフェ”で待ち合わせだよ」
そういい、しばらくすると出かけて行った。


テーブルには長女と作ったであろう、サンドイッチと母からのオレンジがテーブルにあった。

オレンジの皮をむくとフレッシュで甘い香りが広がり、子どもたちの顔が浮かんでくる。
子どもたちは柑橘が大好きなのだ。「おいちぃー」と口をすぼめて食べる笑顔が浮かんでいた。
「あぁ、マーマレードを作ってあげようかな」

結局、自分の趣味とかないから、こういうことしちゃうのよね‥そういいながら
無心で作り始めた


ふと、この甘い香りに包まれながらゆったり流れる時間が懐かしく感じた。
お母さんもも同じように、マーマレードやイチゴジャムを作ってくれていたことを思い出す。

でも、お母さんも看護師だったしお父さんは警察官で、共働きで忙しかったはず、自分も厳しく育てられたし、小学生以降だが一人の留守番も多かった。
お母さんも孤独を感じたことがあるのだろうか?
子どものわたしには、そんな風に見えたことがない。お母さんは、約束事とかマナーに関しては厳しくても、いつも笑顔だったし…

「やっぱり、わたしってダメな母親なのかもしれない」とネガティブな感情に引き戻されていく恵瑠。


恵瑠は、本屋に行き悩みの解決になるような書籍を探すことにした。


チャンドラ・カフェと同じ通りにある古本屋
緑に囲まれていて、ついつい入りたくなるような雰囲気で、図書館のように静かだけど、人の出入りは多く本も循環している話題のお店なのだ。


奥に入ると「不安なあなたへ」「眠れない夜には」などコーナーごとのフレーズが並んでいた。
目に留まったのが「孤独を感じるとき」さらに『深い夜の孤独を克服する方法』という本が光り輝くように目に留まったのだ。

パラパラとめくると、心が温まるような言葉が続いた。
これを購入し、チャンドラカフェで読むことにした。

チャンドラカフェでは2階の川が見える窓際を勧められ
恵瑠は座るなり、カフェオレを注文し、すぐに本を開いた。
一文一文が温かく、心に染みるものだった。

孤独は誰にでも訪れる感情であり、それを受け入れることが大切だと書かれていた。

自分が孤独に感じるのはなぜなんだろう?
夫だって両親だって優しいし、子どもは一時的ないやいや期なだけ…

そんな内なる自分と対話をし始めた。


しばらくすると、席の後ろ中三階のようなお部屋から、30歳代くらいの女性がでてきた。
後ろから一緒に降りてくる女性に「なんだかスッキリしました!上手くいくような気がします」など笑顔で話しかけていた。
「あそこは何だろう?」と店を見渡すと「香りの処方箋」「香りと共に心を見つめる」そんなワードが見えてきた。
それまで何も見えていなかった自分に驚く。

恵瑠は、お客様を見送った女性に声をかけてみた。

調香師 香音という女性で、話を聴き、今必要な香りとメッセージを引き出してくれるというのだ。

待ち合わせまで、まだ時間はある
恵瑠は、さっそく話を聴いてもらうことにした。